『シンフォニック=レイン』 ―かなしみと幸せの物語―

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さて、今回皆様にご紹介いたしますのは、2004年に工画堂スタジオくろねこさんちーむより発売されたPCゲーム『シンフォニック=レイン』です。
ミュージックアクションAVGという、恋愛アドベンチャーを基本にミュージックアクションパート(音楽ゲームのようなもの)を取り入れた作りになっております。
プレイヤーは、本作の主人公であり魔導奏器「フォルテール」の奏者でもあるクリスの視点を通して、舞台となる雨の街で少女たち出会い、交流し、演奏し、音楽学院の卒業演奏に向けて物語を進めていきます。
西川真音さんによって丁寧に作りこまれたシナリオ、しろさんによって描かれた温かみのあるキャラクター、中原麻衣さんを始めとした豪華声優陣が息を吹き込むヒロインたち、そして作品の中核でもある岡崎律子さん作詞作曲の素晴らしい楽曲の数々……。
それらが奏でるシンフォニーは、皆様に素晴らしいひと時を運んできてくれることでしょう。

なお、PCゲームの恋愛アドベンチャーといえば年齢制限のある作品が多い印象もございますが、本作は全年齢対象となっておりますので、若い方にも安心してお楽しみいただけます。


……というわけで、最近『シンフォニック=レイン(なぜか愛蔵版)』をプレイしていました。
これは素晴らしい作品ですね!
どのくらい素晴らしいかというと、こうして唐突に紹介記事なんぞを書いてしまいたくなる程です!(よく分からん
“心に残る名作”……という表現はありきたりで捻りがありませんが、しかしそう言わずにはいられない作品ですね。


以下、『シンフォニック=レイン』の紹介兼感想を書いていこうと思います。
ネタバレは控えめですので、参考にしたい方がいればどうぞ。



シナリオ

「雨」の物語
『シンフォニック=レイン』のシナリオは、いわゆる感動路線と言えます。
一言で言うなら、そのイメージは「雨」。
どんよりと空を覆う雲、そしてそこから降り注ぐ雨は、心を覆う闇や涙のような、暗く悲しい情景を人々に連想させます。
しかし、時には私たちを優しく包みこみ、嫌なことを全て洗い流してくれるような感覚を与えてくれることもあります。
雨が上がった後の晴れ渡った青空を待つ楽しみを与えてくれることも。
そんな、暗さや悲しさといった負の印象を基調としながらも、同時に優しさや希望のような温かい印象も持ち合わせているのが、この『シンフォニック=レイン』という作品です。


全て終えた後に押し寄せる感動
抽象的なイメージだけを言っても分かりにくいと思いますので、もう少し言葉にしていきましょう。
例えば主なKey作品の場合、基本的には“楽しい日常を描いた前半パート”と“シリアスで感動が待ち受けている後半パート”によって構成されており、前半と後半ではがらりと印象が変わることが多いです。
そして後半、あるいはクライマックスでは、涙腺崩壊の感動シーンが待ち受けています。

一方、『シンフォニック=レイン』はそれとは異なり、ほぼ全編に渡ってしっとりとした雰囲気が作品を覆っています(もちろん楽しい部分もありますが)。
語弊を恐れず言えば、読んでいて必ずしも気持ちのいいシナリオではないんですよね。
しかし、読み進めていく内に物語の世界に惹きこまれていき、気づけばその雰囲気に包み込まれているような、そんな不思議な魅力も持ち合わせています。

また、感動そのものの質も、ある特定の場面でガツーンと来るようなものとは異なります。
「ここで涙腺崩壊!」というタイプの感動とは――これは感じ方の差もあるかもしれませんが――違うと、少なくとも私は感じました。
ではあまり感動しないのかと言われれば、そんなことはありません。
感動が後から効いてくる作品だと感じています。
小さな出来事や言動、明かされる事実などがじわじわと蓄積されてきて、全てを終えて振り返った時に、改めて静かな、それでいて大きな感動が押し寄せてくる。
冷たい雨に長く打たれていたからこそ、ようやく訪れた青空に深い感動を覚える。
『シンフォニック=レイン』をやり終えた時、そんな気持ちに包まれることでしょう。


繊細かつ巧みなシナリオ
これらの感動を生み出すのが、丁寧な伏線と心情描写によって織り成された繊細なシナリオです。
伏線やら含みのある発言やら、まるで曇り空のごとくもやっとする出来事に度々出くわしますが、最後まで進めれば「なるほど!」と思えるような作りになっています。
ほどよく予測でき、ほどよく予想を裏切られる、ちょうどいいバランスを保ったその構成は、非常に巧みであると言えますね。
そしてキャラクターの心情の描写。
キャラクターの内面を掘り下げることで、ストーリーやキャラクターの造形を深めるだけでなく、感情移入を通してプレイヤーを作品世界の中へと引き込む力を持たせることにも成功しています。
特にキャラクターの内面描写については、『シンフォニック=レイン』の売りの一つと言っていいかもしれません。



キャラクター

奥行きのあるキャラクター
『シンフォニック=レイン』に登場するキャラクターたちは、シナリオ同様、派手な特徴があるとは言えません。
温かみがあってとても可愛いものの、色調や髪型・服装など、どこか落ち着いた雰囲気を持つデザイン。
性格についても、ヒロインものによく登場するような突飛な(強烈な)個性というのはそこまでありません。
よく言えば現実的で控えめ、悪く言えば地味。
しかしながら、それぞれのキャラにはきちんとした存在感があり、それぞれが異なる魅力や役割を持っています。
しろさんによるデザインはもちろん、特に性格などの内面についての部分で、キャラクター作りの上手い作品だと言えます。

そんなキャラクターの魅力を引き出しているのが、先述したシナリオにおける丁寧な描写です。
シナリオによって裏打ちされた、地に足がついたキャラクターは、だからこそ地味にはなるものの、しかし確固たる存在感を持っているのです。
後述する楽曲やサイドストーリー等も合わせ、様々な角度からキャラクターが描かれている点も大きいですね。
作品を進めていく内に、頭の中にあるヒロインのイメージが色々な面から彫り込まれていき、奥行きや深みのある人物像が削り出されていく感覚。
単なるイラストでしかなかったヒロインたちが、次第に人間味や現実味を帯びていく感覚。
気づけば、強いリアリティーを持つ存在として、プレイヤーの心の中で息づいていることでしょう。
ゲームのヒロインとしては落ち着いたデザインというのも、このリアリティーを深める一因となっていますね。

ちなみに、個人的には、一番可愛いと思うキャラはリセ、妙に惹かれるキャラはファル、感情移入してしまうキャラはトルタ、恋人として理想だと思うキャラはアル、見ていると妙に安心するキャラはフォーニです(どうでもいい



音楽

キャラクターの胸の内さえも口をついて出る楽曲
さて、ここまでシナリオやキャラクターといったAVGの最重要要素と言える項目について挙げてきました。
『シンフォニック=レイン』にはそれらと同等、もしかしたらさらに重要かもしれない要素が存在します。
それが岡崎律子さんによる音楽です。

音楽が作品の中でも大きな評価ポイントになっていること自体は、そう珍しくありません。
Key作品もその1つですよね。
しかしこの作品における音楽、特に歌唱曲は、単なる評価ポイントとは訳が違います。
もはや岡崎さんの楽曲なくして『シンフォニック=レイン』は成り立ちません。
それほどまでに重要なポジション、あるいは作品の中核として、岡崎さんの楽曲が存在しているのです。

なぜそれほどまでに重要なのか。
曲自体が素晴らしいから? ミュージックアクション要素があるから?
……確かにこれらの要素も、作中における楽曲のウエイトを高めている理由ではあります。
ですが、それ以上に大きな理由が、キャラクターの心情と密接にリンクした曲の作りという点にあります。
本編で語られたことの裏付けとなるような感情、あるいは本編では語られなかったキャラクターの内面。
そういったものが、特に挿入歌の旋律や歌詞から溢れ出してきます。
結果、先述したキャラクターの人物像、さらには作品全体に深みを与えています。
岡崎さんの楽曲がない『シンフォニック=レイン』など、ミルクのないカフェ・ラッテのようなもの。
時にはシナリオの補完のために曲があるのか、それとも曲を補完するためにシナリオがあるのか分からなくなってしまうほど。
もしかしたら岡崎さんの曲が持つ雰囲気こそが、『シンフォニック=レイン』という作品全体に流れる雰囲気なのかもしれません。

……と、ここで「まずは曲をチェックしてみよう」と思われる方もいるかもしれません。
前述の通りキャラクター、もっと言えばシナリオとも密接にリンクしているので、できれば作中の登場よりも先に聴くのは避けた方がいいです。
その代わり、全てが終わった後に、じっくりと聞き直してみてください。
曲の、そして歌詞の素晴らしさを実感することができると思います。


岡崎さんからのメッセージとしての楽曲
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歌詞については、作中の登場人物の心情だけでなく、これらの曲を書いた当時の岡崎さん自身の心情と重ねることもできます。
言わばダブルミーニングのような。
これは『シンフォニック=レイン』とは直接関係ないかもしれません。
しかし、一度でいいので、そういった聴き方もしてみてください。
きっと歌詞の意味合いが今までと違って受け取れるようになるでしょう。



その他

ミュージックアクション
工画堂スタジオくろねこさんちーむのミュージックアクションAVGシリーズということで、本作にも採用されているミュージックアクションパート。
キーボードを用いて、流れてくる音符に描かれたアルファベット(記号)のキーを特定のタイミングで押すという、まぁ音ゲーのようなものです。
というわけで、音ゲーの類をほとんどしない私から言うことは特にありません(ぇ

強いて言うのであれば、苦手であっても自動演奏に頼らずにプレイした方がいい、ということでしょうか。
全てオートで演奏してくれる「自動演奏」がオプションで設定可能になっていて、シナリオ上はそれで全く問題なくクリアまで辿りつけるのですが、それでは『シンフォニック=レイン』の醍醐味を存分に味わうことができません。
単にクリアを目指すのではなく、パートナーと共に“フォルテールを演奏する”ことで、あたかも自分が主人公のクリスと一体化し、作中に入り込んでしまったかのような一体感を味わうことができます。
フォルテールは、現実世界と作品世界をと繋ぐ魔法のデバイスでもあるのです(ドヤッ

また、自動演奏に設定していると必ず成功してしまうので、失敗パターンのテキスト・台詞や展開を見ることができないという地味な弊害もあります。
シナリオ上は別に重要ではないのですが、BAD行きの選択肢を敢えて選ぶような楽しさや発見が味わえます。
コンプリート志向の方は必見ですね。


サイドストーリー
ゲーム本編と共に目を通してもらいたいのが、いくつかあるサイドストーリー。
紹介ページにて公開されているものや、『シンフォニック=レイン デジタルピクチャーコレクションplus』(『シンフォニック=レイン 愛蔵版』特典)等に収録されているものなどですね。
前者についてはプレイ前でも後でも好きな時に(先入観を持ちたくなければプレイ後推奨)、後者については必ずプレイ後に読んでみてください。
本編の補完として理解を深めたり、本編では描かれなかったキャラクターの別の面を垣間見ることができたりしますので、一読の価値ありです。

ちなみに、『エンジェルアソート3』及び『シンフォニック=レイン デジタルノベルコレクション』(『シンフォニック=レイン 普及版』特典)に収録されているノベル3本については未読なので何とも言えません(何


誤字脱字
あくまでも私がプレイした『愛蔵版』においてではありますが、誤字脱字が散見された……というか結構ありました。
テキストを後に習性したためか、音声と台詞の文章が会っていない箇所もちらほらと。
この辺りは、商業用の製品としてあまりよろしくないきがしますね。
もしマイナスポイントを上げろと言われたら、間違いなくこの点になると思います。
スルーや脳内変換をすればそこまで問題ではありませんが、細かい部分も気になる方は気になる鴨しれません。

……ここまで普通に読めれば問題はなさそうですが(何
作品自体が素晴らしいだけに、非常に惜しい点です。




この『シンフォニック=レイン』という作品には、人々の注目を集めるような華やかさはありません。
しかし、人目は引きつけられなくても、心は惹きつけられる、そんな不思議な魅力が存在しています。
決して派手とは言えない、その落ち着いた雰囲気は、人によって好みが分かれるところでしょうね。

もし、この紹介と言えるか分からない拙文を読んで、少しでも興味を持ってもらえたなら。
きっと『シンフォニック=レイン』という作品を心から愛することができるでしょう。




[ 2011/02/21 22:00 ] ゲーム | コメント(0) | TB(0) | ▲TOP
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