『Angel Beats!』と「過程」の描写

世間では批判の声も大きかった『Angel Beats!』。
ぶっちゃけますと、まあ私も諸手を挙げて評価できるような内容ではなかったと思います。
もちろん、いいと思うところもありましたが、批判されてもしかたない部分もあった、と。

そんなAB!の弱点(欠点)として、ひとつ考えついたものがあります。
過程」の描写、これが不足していたのではないかと。

以下、思いついたことを思いつくままに書いていこうと思います。
ぶっちゃけ妄言なので(何)、暇つぶしに読んでやってもいいという方は続きからご覧ください。


※他のKey作品(『Kanon』『AIR』など)のネタバレが飛び交っています。ご注意下さい



真琴とユイ

まず比較したいのは、真琴ユイ
ここでの真琴は、もちろん『Kanon』の沢渡真琴のことです。
個人的にはいわゆる“個別シナリオ”に限ればKey作品で一番好きと言っても過言ではない真琴シナリオ。
この中にはユイとの共通点がいくつかあると思います。
……もちろん、背景など細かい点を挙げていけば違う部分も山ほど出てくると思いますが、ここでは便宜上無視したいと思います(ぇー

この2人のヒロイン……あるいは2組みのカップルの話に共通するのが、「ケンカばかりしていた」「結婚という望みを叶えた」という点。
ユイは「叶えた」とまではいかないかも知れませんが、まあ大体同じなので叶えたことにしておきます。


真琴シナリオで重要なのが、いがみ合っていた2人が「仲のいい兄妹か恋人か」、というところまで親密になったところだと思うんですよ。
真琴のいたずらに対して酷すぎるような対応をしていた祐一が……、というのは、序盤では考えられないですよね。
しかし、祐一が隣を歩けと言ったり必死で探したり家族として認めたり、次第に仲がよくなっていく。
お互いを認め合っていく。
元々の土台もあったといえばありましたけど、こういった変化の過程を描いていったからこそ、終盤の感動に繋がったのだと思います。


一方、ユイと日向の場合、展開が唐突すぎたように感じました。
確かに4話から続く関係やEDのカットのお陰で、ユイと日向というカップリングは定着していたと思います。
しかし、その関係性はあくまでも犬猿の仲、せいぜい喧嘩するほど仲がいいというレベルであって、恋愛や、ましてや「結婚」なんて言葉が出てくるほど親密な間柄には見えていなかったと思います。
なので、10話で日向が「俺がしてやんよ!」なんて言った時も、始めはギャグかその場の勢い程度にしか捉えていませんでした。

2人の関係が変化していく描写がもっとあれば良かったんですけど、8話でも漫才コンビ(ぇ)な状態は変わらず、「好きなのか嫌いなのか……って好きなわけないって」というイメージでしたね。
そこに「結婚」とか出ても、すぐには受け入れられませんよねぇ……。
AB!ではここに至るまでの過程の描写が弱かったんじゃないかと思います。



麻枝シナリオにおける「過程」

この「過程」というのは、麻枝さんの書くシナリオでも重要な部分だと思うんですよ。
あるいは、私が好きなだけかもしれませんけど(汗

真琴シナリオ以外では、例えば『AIR』のAIR編
親子という関係を改めて築きあげていく観鈴と晴子。
「母親」になる過程を描いていたのが、AIR編でもあるわけです。
その積み重ねがあるからこそ、海に向かう2人の何気ない会話が映え、その後のゴールもより感動的になるんですよ。
いい関係を築けていなかった2人が、いきなり「ここからやないか」言うても、それはついていけないですよね。


音無かなでの関係にしても、ちょっとこの過程の描写が弱かったんじゃないかと。
11話の時点では「こいつ」と言って頭をなでるなど、助けてあげるべき対象みたいな扱いだったじゃないですか。
そりゃあ、7話で完全にルート突入はしてましたけど、11話の段階でもそんな関係でしたし、そこで最終話みたいな想いを告げられても、いやいやいやとなってしまいますねぇ……。

こうして出来上がってしまった「唐突な展開」というのが、必要以上に視聴者置いてけぼりやらシナリオの矛盾・破綻やらといった印象を強めてしまった気がしてなりません。



アニメという媒体

しかしアニメの場合、じっくりと展開させていくのは難しい場合があります。

一つは尺の問題
1クールなり2クールなり決められている話数の中で収めなければいけないため、あまり長いシナリオにするわけにはいきません。
ここはAB!が難儀した部分ですよね。

そしてもう一つは掴みの問題
1週間に1話の放送となるため、どうしても話と話の間が空いてしまいます。
1話の中に「続きが見たい!」と思わせるような掴みや引きがなければ、割と簡単に視聴を切られてしまう恐れがあるのです。
AB!の場合は、1話の中で前半明るくて後半暗くなる展開を見せたり、続きが気になるような次回予告・Cパートを入れたりしてきました。
これ自体は良かったと思うのですが、その展開の仕方から、どうしても連続性の部分が弱くなってしまったんじゃないかと思います。
ぶつ切りになってしまった感……とでも言いますか。
アニメとしての魅力を出すか、それともしっかり続いた物語を重視するか、これは難しいところだったのかもしれません。



こんな麻枝作品が見てみたい

以上のような理由から、今回のAB!でじっくりと過程を描写することは難しい状況にあったと言えます。
そういった描写はゲームのシナリオ向きですからね……(汗

だからと言って、アニメではきちんと物語を描けない、と言っているのではありません。
そんなことは今までのアニメ作品を見れば分かりますよね。
久弥直樹さん(元Keyのシナリオライター)が原案の『sola』も、1クールという短い中で非常によくまとめられている物語だと思います。

また、麻枝さんは短い枠の中では物語を書けない、というわけでもありません。
麻枝さんが書く歌詞は、歌にしてわずか数分の中で物語を紡いでいますからね。
歌詞とシナリオは違うかもしれませんが(汗


今回言いたいのは、私が好きな……そうですね、はっきり言うことにしましょう。
麻枝さんシナリオにおける「過程」や「積み重ね」の描写が、私は大好きなのです。
それがあるからこそクライマックスの感動が増し、さらには何気ないやり取りまでもが感動的に見えてしまうような、そんなシナリオが好きでたまりません。
これをやるには、AB!は少し厳しい環境だったと言わざるを得ないでしょう。

ならば何を望むのか。
まずはゲームでしょう。
これはAB!のゲーム化ということではありません。
麻枝さん企画・シナリオの新作ADVをぜひとも開発して欲しいと思っています。
アニメであれば、「僕」と「君」の物語といった感じのシナリオがいいですね。
もっとキャラクターの掘り下げができるようにして欲しいです。


じっくりと展開していく物語の中で光る、麻枝さんのシナリオの魅力。
そういうものが感じられる作品をまた見てみたいです。


[ 2010/10/18 21:37 ] Key - Angel Beats! | コメント(7) | TB(0) | ▲TOP
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[ 2010/10/20 16:26 ] [ 編集 ] ▲TOP
たしかに・・
たしかに・・
ユイと日向の件は唐突すぎましたね(汗
とりあえずAB!は2クールにすればそういう物足りなさがすこしは解消できたのではいなかと思います。
[ 2010/10/20 21:46 ] [ 編集 ] ▲TOP
Re: たしかに・・
同じく唐突と感じていた方も多いみたいですね……。
2クールになればその辺りの描写も丁寧になるかもしれませんが、それだと変に間延びしてしまいそうでもあります。
あの短い中での密度や疾走感も好きでしたので。
……やっぱり難しいところですね(汗
[ 2010/10/20 23:51 ] [ 編集 ] ▲TOP
「2クールなら」「ゲームなら」
ぶっちゃけ散々言い尽くされた感はありますよねw
1から10までのゆとり仕様にしろとは言いませんが……ね。

個人的にはやはりトラック0からの流れがあったので、日向とユイのカップリングには違和感を禁じ得ませんでした。
ユイは良い娘なのでFes.のアレとかは素直に「うんうん、良かったなぁ」と思えるんですけどw



古河夫妻と掛けまして、感動のラストと解きます。その心は……

どちらも『かてい』が大事です。おそまつ!
[ 2010/10/21 12:20 ] [ 編集 ] ▲TOP
過程がもの足りないというのには同意見です。

リトバスの理樹と鈴が強くなっていくのも、
CLANNADの朋也と渚が強くなっていくのも全て過程があるから評価されたんですからね。

その代わり、AB!はエンターテイメント性が従来に比べて上がったと思います。
……keyも変わる時期が来たのかもしれませんね
[ 2010/10/21 18:12 ] [ 編集 ] ▲TOP
>>えてきちさん
長ければもっと深い描写が出来たでしょうけど、詰め込まれていたからこその面白さもありましたからねー。
長くすれば長くするで、今度は「展開が遅い」とか「説明臭い」といった批判も生まれそうです(汗

日向とゆりがくっつく可能性はT0の序盤で消えていた、ということなんでしょうねw
“いつも一人で歩いて”いる危なっかしいゆりを支えるのが日向の役目だった、と。
ユイとのカップリング自体は、やっぱりいいコンビに思えますw

『かてい』こそが麻枝作品の『鍵』なんですねっ!
[ 2010/10/22 21:57 ] [ 編集 ] ▲TOP
>>ふみーさん
ADVとアニメの描き方は異なる……ということなんでしょうねー。
それぞれの利点を活かした結果、じっくりと描けるADVではCLANNADのような長い長い物語やリトバスのような成長の物語を、映像で魅せることができるアニメではAB!のような“動き”のある作品を、それぞれ創り出したんだと思います。
ただ、やっぱりゲームから入ったファンとしては、アニメでのストーリー面の描き方に物足りなさを感じてしまいました(汗

エンターテイメント性で言えば、リトバスの辺りから変わってきてますよね。
Rewriteはどちらかと言えば落ち着いた雰囲気に見えるので、そこからKeyがどうなるのか気になるところです。
[ 2010/10/22 22:22 ] [ 編集 ] ▲TOP
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